リッチモンド連銀のトーマス・バーキン総裁は、現在の米金融政策(中央銀行が金利や資金供給を通じて景気や物価に働きかける政策)は、相次ぐショック(予想外の出来事による景気・物価の急変)に対応できる適切な状態にあるとの認識を示した。今後の利下げ・利上げ(政策金利の引き上げ・引き下げ)は、環境変化に対する企業と消費者の反応次第だと述べた。
バーキン氏は、消費者は不満を抱えつつも支出を続けていると指摘。FRB(米連邦準備制度理事会)が追加利上げを必要とするかどうかは、支出や行動の変化がどう進むかに左右されるとした。
Policy Positioned For Shocks
同氏は、企業が生産性(同じ人数・時間でどれだけ生産できるか)改善を、解雇(レイオフ)ではなく自然減(退職者の補充を抑える「アトリション」)で進めていると説明。さらに、供給ショック(原材料不足や物流停滞など供給側の要因による物価変動)を一時的要因として「見過ごす」姿勢は過去に機能してきたが、今後はショックがより頻繁になる可能性があると述べた。
長期のインフレ期待(将来の物価上昇率の見通し)については、現時点では抑えられているように見えるという。
現在の金融政策は「良い位置」にあり、FRBは当面、政策金利を据え置く(変更しない)可能性が高い。市場は当面レンジ相場(一定の値幅で上下する相場)になりやすく、FRB高官発言よりも経済指標を重視する局面だ。デリバティブ(先物・オプションなど派生商品)取引の参加者は、中央銀行のメッセージよりも、指標の予想外の結果に相場が大きく反応しやすい点を意識したい。
消費者は楽観していない。ミシガン大学消費者信頼感指数(家計の景況感を示す指標)は直近で67.4に低下した。一方で支出は続き、4月の小売売上高は横ばいながらマイナスではなかった。この食い違いを踏まえると、支出が急減するリスクに備え、オプション(将来の売買をあらかじめ決めた条件で行える権利)で下振れに備える戦略が有効になり得る。
Strategies Around Economic Surprises
労働市場は堅調で、直近の雇用統計では新規雇用者数が17.5万人増、失業率は3.9%と低水準だった。企業は解雇ではなく自然減で人員を調整し、生産性を高めている。これは企業利益の下支えになりやすい一方、FRBが利下げに動かざるを得ない状況にはなりにくい。雇用が安定している以上、早期利下げを見込む取引は時期尚早だろう。
VIX(S&P500の予想変動率を示す「恐怖指数」。数値が低いほど市場が落ち着いていることを意味する)は足元で13近辺と低い。インプライド・ボラティリティ(オプション価格から逆算される予想変動率)が低く、オプションの保険料に当たるプレミアム(オプション購入の支払い)が相対的に安い環境だ。この局面では、相場の膠着を見込んでプレミアムを受け取る取引が選好されやすい。例えば主要株価指数でのアイアン・コンドル(2つのコールと2つのプットを組み、一定レンジ内なら利益を狙うオプション戦略)が挙げられる。ただし、CPI(消費者物価指数)のような重要指標の発表前は急変リスクがある。
供給ショックを一時要因として扱う政策運営は過去に機能してきたが、今後のショックはより難しくなる可能性がある。直近のCPIではインフレ率が3.4%へやや鈍化したものの、再加速すれば市場心理は急変し得る。もっとも、長期のインフレ期待は落ち着いており、FRBには一定の猶予がある。
今後の金利判断は景気の推移次第であるため、トレーダーはイベント(重要指標発表など)に合わせた戦略を重視したい。次回の雇用統計やインフレ指標の前に、短期オプション(満期が短いオプション)を使ったストラドル(同じ満期・同じ行使価格でコールとプットを同時に買い、上下どちらかに大きく動けば利益を狙う手法)を検討するのも一案だ。市場は次の材料待ちであり、こうした指標が方向感を与える。