英国内の政治的緊張が高まり、辞任や党首交代の観測がキア・スターマー首相への圧力を強めている。これにより、今後の財政政策(政府の税収・歳出計画)を巡る不透明感が増した。
ポンドは下落しており、この動きには政治の不安定さが関係している。後継候補が示す政策方針は依然として見えにくい。
政治リスクはまだ十分に織り込まれていない
コメルツ銀行は、市場がこうしたリスクをまだ十分に織り込んでいないとみる。今後数週間でEUR/GBP(ユーロ/英ポンド)が上昇すると予想している。
スターマー首相を取り巻く状況が徐々に厳しさを増すなか、英国の政治情勢は為替市場の主要材料になりつつある。財政運営を巡る対立を背景に財務相が辞任したことで、首相の求心力は大きく低下した。政権がどこまで持つかは不透明で、これはポンドにとって明確にマイナスだ。
問題は2つある。第一に、政治の不確実性は一般に通貨にとって悪材料になりやすい。第二に、仮に首相が交代した場合、後継がどのような財政政策を行うのかが全く読めないことだ。英国10年国債(ギルト、英国政府が発行する長期国債)の利回りは、ドイツ10年国債(ブント、ドイツ政府が発行する長期国債)との利回り差(スプレッド)が今週だけで15bp(ベーシスポイント=0.01%)拡大した。これは、債券投資家が追加の上乗せ利回り(リスクプレミアム=不確実性に対して求める追加の見返り)を要求していることを示す。英資産に不安定さが価格として反映され始めているサインだ。
ギルト市場の反響
2022年後半のギルト市場の混乱では、財政運営の信認が揺らぐと投資家の信頼が急速に失われ得ることが示された。今回の政権内対立や明確な経済方針の欠如は、2024年総選挙後の安定局面とは対照的で、当時の混乱の入り口を連想させる。過去の例から、今後の対応次第では市場の反応が想定以上に大きくなる可能性がある。
ポンドは足元で下落しているが、政治リスクはまだ相場に十分反映されていないとみる。EUR/GBPオプション(将来の売買をあらかじめ決めた条件で行う権利)の1カ月インプライド・ボラティリティ(市場が見込む予想変動率)は8.9%まで上昇し、年初来の高水準となった。これは、トレーダーが値動きの拡大に備えていることを示す一方、現物相場(スポット)はまだ明確に上方向へ抜け切れていない。
こうした状況を踏まえ、今後数週間はEUR/GBPが上昇すると見込む。デリバティブ(金融派生商品)を使う投資家は、ポンド安が進む局面に備え、例えばEUR/GBPのコールオプション(将来、一定の価格で買う権利)を買って上昇時の利益を狙う戦略が考えられる。支払うプレミアム(オプションの代金)に損失が限定されやすい点も特徴だ。不確実性はポンドに不利な方向性を強めている。
さらに、最新の速報値の製造業PMI(購買担当者景気指数=企業の景況感を示す指標)が5月に48.9へ低下し、予想外に景気後退の目安とされる50を下回ったことも重しとなる。景気が弱い局面で政治危機が重なると、ポンドは追加のショックに対して脆弱になりやすい。党首問題が明確に決着するまで、ポンドに楽観的になる理由は乏しい。