EUR/USDは5日続落し、金曜のアジア時間に1.1650近辺で取引された。下落の背景には、中東情勢の緊張で物価上昇(インフレ)圧力が強まるとの見方や、米連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利を「高い水準で長く」維持するとの観測を受け、米ドルが買われたことがある。
米小売売上高は4月に前月比0.5%増となり、市場予想と一致し、3月の1.6%増から伸びが鈍化した。前年比では4.9%増と、予想の3.3%を上回った。
FRB人事の変更とドル買い
米ドルはFRBの人事変更でも支えられた。スティーブン・ミラン氏が理事会(Board of Governors)を辞任し、ケビン・ウォーシュ氏がFRB議長に就任する見通しとなった。※FRB理事会は、金融政策(利上げ・利下げなど)を決める中枢。
一方、米・イランの持続的な和平合意への期待が後退し、欧州のインフレ圧力が強まれば、EUR/USDの下落は限定される可能性がある。これによりホルムズ海峡の通航が実質的に止まり、ユーロ圏のエネルギーコスト(原油・ガスなど)が押し上げられやすい。※ホルムズ海峡は原油輸送の要路で、通行制限は原油高につながりやすい。
金融市場(短期金利先物など)は、欧州中央銀行(ECB)が6月に利上げする確率を織り込み、2026年末までに追加利上げが3回近く織り込まれている。ECB高官のマルティンス・カザークス氏は、原油高がインフレ予想(将来の物価上昇見通し)に波及するなら、金利を引き上げる必要があるとの考えを示した。
EUR/USDが1.1650で推移するなか、目先はドル高が続きやすい流れが示唆される。4月の米消費者物価指数(CPI)は前年比4.1%と予想を上回り、FRBがインフレ抑制を優先して利下げに慎重(タカ派=引き締め寄り)であるとの見方を補強した。市場は9月までの追加利上げ確率を40%程度まで見込み、先月から大きく上昇した。※CPIは消費者が買うモノ・サービスの価格の上がり方を示す代表的な物価指標。
ECBの引き締め姿勢とボラティリティ(変動)要因
次期FRB議長にケビン・ウォーシュ氏が就任することは、インフレ対応をより重視する人物と見られているため、ドル買い材料になりやすい。今回の人事により、利下げのハードルがさらに高くなったと受け止められ、中期的にドル高を見込むポジションが増える可能性がある。デリバティブ(金融派生商品)では、EUR/USDの下落に備えてプットオプション(売る権利)を買う戦略が候補となる。※オプションは、あらかじめ決めた価格で将来売買できる権利。
ただし、下落が一方通行になるとは限らない。ユーロ圏でもインフレが問題となっている。最新のユーロ圏HICP(消費者物価指数のEU基準)は3.5%のインフレを示し、原油価格も高止まりしていることから、ECBは6月利上げに動きやすい。ECBのタカ派姿勢が強まれば、ユーロの下支え要因となり、急落を防ぐ可能性がある。※HICPはEU加盟国間で比較しやすいよう統一基準で作る物価指標。
2014〜2015年には、金融政策の方向性の違い(政策の分岐)がEUR/USDを1.40近辺からほぼパリティ(1.00近辺)まで押し下げた。同様の構図はあるものの、現在は両中銀が引き締め方向である点が大きく異なり、値動きの大きさ(ボラティリティ)が高まりやすい。方向性に関係なく急変動を狙う手段として、ストラドル(同じ行使価格でコールとプットを同時に買う戦略)を検討する向きもある。※コールは買う権利、ストラドルは大きく動けば利益になりやすい一方、動かないと損失になりやすい。
こうした材料が拮抗するなか、今後数週間は、損失額をあらかじめ限定する戦略として、EUR/USDのベア・プット・スプレッド(プットの買いと売りを組み合わせる下落狙い)が適する可能性がある。例えば、1.1600のプットを買い、1.1450のプットを売る。相場が下落すれば利益が出やすい一方、利益も費用(支払うプレミアム)も上限がある。※行使価格(ストライク)は、権利行使時の売買価格。