スタンダード・チャータード銀行のエコノミスト、ジョナサン・コー氏とエドワード・リー氏は、フィリピンの成長が鈍化しても、フィリピン中央銀行(Bangko Sentral ng Pilipinas=BSP)が「タカ派(インフレ抑制を優先し、利上げなど引き締めに前向きな姿勢)」を維持するとみている。金融政策の主眼は引き続きインフレだという。
両氏は、BSPの見通しがインフレの道筋を上方に示している点を挙げる。BSPは以前、2026年のインフレ率(物価上昇率)の予測を6.3%としていた。一方、4月のインフレ率は前年同月比7.2%と高く、BSPの想定レンジ(5.6~6.4%)を上回った。
インフレが金融政策の最大要因
両氏は、6月の定例会合(政策決定会合)の前に、臨時の利上げ(オフサイクル=通常の会合日程外での決定)を0.50%(50bp=ベーシスポイント、金利の単位で0.01%を1bp)実施すると予想する。背景には「インフレ期待(家計や企業が将来の物価上昇をどう見込むか。高止まりすると賃上げや価格転嫁を通じてインフレが続きやすい)」への警戒がある。
インフレが鈍化し、成長も弱含むにつれて、2027年4~6月期(第2四半期)から利下げに転じると見る。政策金利は2027年末までに4.5%へ戻る見通しだ。
金利・為替への示唆
この見方を裏付ける材料として、2026年1~3月期(第1四半期)のGDP(国内総生産=国の付加価値の合計で景気の代表指標)が4.8%増と、2025年10~12月期(第4四半期)の5.5%増から減速した点を挙げる。ただ、5月のインフレ率について市場予想(コンセンサス)は7.0%超で高止まりしており、BSPには迅速な対応圧力が強い。フィリピン・ペソもこうした圧力を映し、先週は1ドル=60.50ペソ台を超えて下落した。
こうした環境を踏まえ、次回6月会合前の0.50%の臨時利上げ予想を維持する。BSP総裁は、インフレ期待を抑え込むため「あらゆる手段」を用いる考えを繰り返し示しており、これが最も起こりやすい次の一手だとみる。2025年にも、物価圧力が続く局面で会合間の対応が見られた。
デリバティブ(金融派生商品=金利や為替などを元に価値が決まる取引)を扱う投資家にとっては、短期の金利上昇を想定したポジションが焦点となる。具体策として、1年物・2年物のフィリピン金利スワップ(将来の金利を固定と変動で交換する取引)で「固定金利を支払う(=金利上昇局面で有利になりやすい)」戦略が挙げられる。また、短期のペソ・コールオプション(一定の期日までにあらかじめ決めた価格で通貨を買う権利。レート上昇時に利益が出やすい)を買い、利上げ後のペソ反発に備える(ヘッジ=損失を抑えるための保険的取引、または収益機会の確保)ことも選択肢になる。
ただし、この強い引き締め姿勢が長く続くとは見込みにくい。利上げは2027年4~6月期から段階的に巻き戻される可能性が高い。インフレが目標レンジへ明確に近づけば、成長の鈍化が政策の主因となるためだ。このため、イールドカーブ(国債などの期間ごとの金利の並び)では、短期側が上がりやすい一方、長期側は将来の利下げを織り込みやすく、比較的安定しやすい。