ジョン・ウィリアムズ氏は、イラン戦争が米国経済にどのような影響を与えるか、現時点では判断できないと述べた。米金融政策は、不透明な経済環境に対して引き続き適切な位置にあるとも指摘した。
同氏は、米連邦準備制度理事会(FRB)の「二つの使命(物価の安定と雇用の最大化)」の両方に関するリスクが高まったとし、経済は異例の状況に直面していると説明した。エネルギー市場の見通しは概ね落ち着いている(大きな混乱が起きにくい)としつつ、十分に起こり得る悪い展開もあると述べた。
Iran War Uncertainty And Oil Shock Hedges
同氏は、インフレ率は今年3%になり、2027年に2%目標へ戻る可能性が高いと述べた。インフレの主因は関税(輸入品にかかる税で、企業コストを押し上げ価格に転嫁されやすい)とエネルギー(原油・ガソリン・電力などの価格)だとし、基調インフレ(食品・エネルギーなど変動の大きい項目を除いた、物価の土台となる動き)は概ね安定している、関税によるインフレは時間とともに弱まるはずだと語った。
供給網(サプライチェーン:部品・原材料の調達から生産、輸送、販売までの流れ)の乱れが目立ち始めているとも述べた。インフレ期待(家計や企業が今後の物価上昇をどう見込むか)が抑えられているのは心強く、FRBの役割はそれを安定させ続けることだとした。
米国の実質経済成長率は今年2%〜2.25%を見込む。失業率は4.25%〜4.50%程度で推移すると予想し、雇用市場は総じて堅調だと述べた。
労働力(働きたい人の増減)の伸び方が変化しており、雇用市場の「損益分岐点」(失業率を上げも下げもしないために必要な月間雇用増加数)は月0〜5万人程度になっている可能性があると説明した。Rスター(景気を押し上げも押し下げもしない中立金利)については、直近の低い推計値より高い可能性があるとし、長期的なフェデラルファンド(FF)金利(米国の政策金利の誘導目標)は3%程度になりそうだと述べた。
Trading Implications For Rates Inflation And Volatility
イラン戦争が経済に与える影響が読めず、不確実性が高い局面にある。エネルギー市場には十分に起こり得る最悪シナリオもあるため、トレーダーは原油価格の急騰(オイルショック)への備えを検討すべきだ。WTI原油(米国の代表的な原油指標)はすでに値動きが大きく、直近では1バレル95ドル超で取引された。急騰局面で利益を狙えるオプション(将来の売買価格をあらかじめ決める権利)戦略は妥当とみられる。
インフレは粘着的で、4月のCPI(消費者物価指数:家計が購入するモノやサービスの物価動向)では前年同月比3.4%上昇となった。これにより、今年3%という見通しは現実味がある。FRBの2%目標への回帰は2027年ごろとの見方が強まり、「金利は高止まり(高水準が長く続く)」しやすい環境を示す。近い将来の大幅利下げに賭ける戦略は分が悪い可能性が高い。
景気は予想以上に持ちこたえている一方で、労働市場には弱さの兆しもある。直近の雇用統計では雇用者数が17.5万人増と底堅かったが、失業率が4.50%方向へ上がる見通しは軽視できない。成長が強いのに雇用が弱含む可能性があるというねじれは、取引判断を難しくする。
FOMC(連邦公開市場委員会:金融政策を決める会合)内で意見の割れが目立ちやすくなっており、2025年の議論でも見られた。今後の会合は値動きが荒くなりやすく、会合日程をまたぐ変動(ボラティリティ:価格変動の大きさ)を取りに行くオプションが相対的に有利になり得る。長期のFF金利が3%程度になりそうだという見立ては、低金利に慣れた市場にとって大きな変化だ。
供給網の再混乱と、関税の影響は、注視すべき主要なインフレリスクだ。この環境ではボラティリティ上昇に備えるポジションが選好されやすく、たとえばVIX(恐怖指数:米株の予想変動の指標)のコールオプション(買う権利)や、主要株価指数のストラドル(同じ権利行使価格でコールとプット〈売る権利〉を同時に買い、上下どちらかに大きく動けば利益を狙う手法)などが候補となる。インフレ期待は当面安定しているものの、想定外の物価上昇に振れるリスクが強い。