金(XAU/USD)は金曜のアジア時間早朝、約4,630ドルまで上昇した。中東情勢の緊張が再燃し、投資家が「安全資産(リスク回避局面で買われやすい資産)」へ資金を移したためだ。トランプ米大統領は、米国がイランの港湾に対する海上封鎖を維持すると述べ、ホルムズ海峡(中東の原油輸送の要衝)がすぐに再開しないのではないかとの懸念が広がった。
イランのペゼシュキアン大統領は封鎖を「軍事作戦の延長」と表現し、「容認できない」と反発した。対立が続きホルムズ海峡の閉鎖が長引けば、インフレ(物価上昇)懸念を強め、利下げ期待(政策金利の引き下げ見通し)を後退させる可能性がある。これは、利息を生まない金(「無利回り資産」=保有しても利子や配当が得られない資産)の需要を抑えやすい。
Federal Reserve Policy Outlook
米連邦準備制度理事会(FRB)は水曜日、政策金利(景気や物価を調整するための基準となる金利)を据え置いた。パウエル議長は、景気見通しの不確実性が高いままであり、中東の衝突がその不確実性を一段と増していると述べた。
金は価値の保存手段として用いられ、市場が不安定な局面で買われやすい。また、インフレや通貨安に備える「ヘッジ(損失を抑えるための保険的な取引)」としても使われる。各国中央銀行は2022年に1,136トン(約700億ドル相当)の金を購入し、年間として過去最高となった。中国、インド、トルコなどが外貨準備(有事に備える国の資産)を増やした。
金は米ドルや米国債と逆方向に動きやすい。金利が上がると下落しやすく、株式市場が上昇すると弱含むことも多い。
金が4,630ドル近辺にある中、目先の焦点は、イラン港湾封鎖を背景とする安全資産需要と、高金利という逆風のせめぎ合いだ。FRBが金利を据え置いたことで、利回りのない資産を保有する「機会費用(本来得られたはずの利回りを逃すコスト)」は依然として大きい。地政学リスクが和らいだ場合の下振れを踏まえずに、上昇局面を追い掛けるのは慎重であるべきだ。
Options Volatility Strategy
ホルムズ海峡を巡る状況を受け、金オプションの「インプライド・ボラティリティ(市場が見込む将来の価格変動の大きさ)」が急上昇した。金の変動性指数であるGVZ(Gold Volatility Index=金の予想変動率を示す指標)は24.5と、18カ月ぶりの高水準近くで推移している。これにより、オプションを単純に買う戦略は割高になりやすく、「時間的価値の減少(タイムディケイ=満期が近づくほどオプション価値が目減りすること)」で利益が削られやすい。代替として、保有している金に対してカバードコール(現物や同等の保有を前提にコールオプションを売る手法)を売る、またはスプレッド(複数のオプションを組み合わせて損益の範囲を限定する手法)でリスクを明確にするなど、高い変動性を生かす戦略が考えられる。
中央銀行の買いが下支えになっている点も重要だ。2025年まで買い増しが続き、世界の準備資産に1,040トン超を上積みした。こうした継続的な需要は相場の下値を支えやすく、下落局面では買いが入りやすい。構造的な買い需要があるため、単純なショート(値下がりを見込む売り持ち)には特にリスクがある。
インフレへの影響も鍵となる。2026年4月の消費者物価指数(CPI=家計が購入するモノやサービスの価格変動を示す指標)が3.7%と高く、FRBは様子見姿勢を保っている。封鎖が長期化すれば、エネルギーや海上輸送のコストが上がり、FRBの判断は一段と難しくなる。「高金利が長く続く(higher for longer)」との見方が強まれば、地政学リスクが続いても金の上値は抑えられやすい。
最後に、金と米ドルの逆相関にも注意が必要だ。米金利が高いことでドルの魅力が強く、ドルは底堅い。中東が急速に沈静化すれば、市場の関心は利回りに戻り、ドル高が進んで金が急落する可能性がある。2025年3Qの短期的な市場不安でも、早期決着を受けてドル主導で貴金属が急反落する局面が見られた。