シンガポールの実質GDP(物価変動の影響を除いた国内総生産)は、MTI(貿易産業省)の速報推計によると、26年1-3月期に前年同期比4.6%増となり、季節調整済み(季節要因をならして比較しやすくした数値)前期比では0.3%減となった。25年10-12月期は前年同期比5.7%増、季節調整済み前期比1.3%増だった。
DBSは26年の実質GDP成長率見通しを2.8%で据え置いた。これは、MAS(シンガポール金融管理局)が想定する「需給ギャップ(景気の強さを示す指標で、実際の生産が潜在的な供給力を上回るか下回るか)」が、26年にかけて成長が鈍化する中で平均ゼロ近辺になるとの見方と概ね一致する。
成長見通しのリスク
DBSは見通しに対する外部要因のリスクとして、イラン情勢の衝撃や世界景気の減速を挙げた。MASも今後数四半期の下振れ不確実性に言及した。
報告書は、シンガポール経済は26年初に堅調な出だしとなった一方、年後半は環境が悪化する可能性があると指摘した。貿易への依存度が高い(輸出入の比重が大きい)ため、地政学的な混乱の影響を受けやすい。
外部圧力は主要な指標にも表れ始めている。直近では、中国の製造業PMI(購買担当者景気指数。企業への調査で景況感を示し、一般に50を下回ると景気悪化を示す)が予想外に49.8へ低下し、悪化を示す水準となった。加えて、ブレント原油はこの1カ月で15%以上上昇し、1バレル105ドル超で取引されている。これらはシンガポールの輸出需要を弱め、企業コストを押し上げる要因となる。
変動拡大への備え
当局が年内に成長率が鈍化するとの見方を示していることから、DBSはSTI(ストレーツ・タイムズ指数。シンガポール株の代表的な株価指数)に下押し圧力がかかる可能性を想定する。トレーダーは、株式のロング(買い持ち)ポートフォリオのヘッジ(損失を抑えるための保険)として、今後数カ月のプット・オプション(あらかじめ決めた価格で売る権利。下落に備える手段)の購入を検討し得る。下落局面の損失を抑えつつ、想定外の短期上昇の利益機会を残せる。
地政学リスクと景気不透明感の組み合わせは、市場のボラティリティ(価格変動の大きさ)の上昇につながりやすい。DBSは、デリバティブ(株価指数や為替などを元にした金融商品)を通じてこの変動拡大に備える戦略が有効になり得るとみる。例えば、方向に関係なく大きな値動きで利益を狙うオプション戦略(複数のオプションを組み合わせる手法)などが該当する。
22年には、国内経済が底堅く見える局面でも、インフレ懸念が輸出需要を急速に冷やす形で同様の動きがみられた。外部要因が国内の底堅さを上回る場合があることを踏まえると、足元の高い成長率を受けても防御的な対応が必要だといえる。
MASが減速を見込む中、シンガポールドル(SGD)の一段の急上昇は起こりにくいとの見方がある。世界的にリスク回避(リスクオフ)が強まる局面では、SGDは米ドルなど安全資産とされやすい通貨に対して下落し得る。DBSは、USD/SGD(米ドル/シンガポールドルの為替レート)が上昇した場合に有利となるオプション戦略に妙味があるとみている。