ブレント原油が1バレル=100ドルを上回っても、1970年代のような「原油ショック(原油価格の急騰が景気悪化と物価高を同時に招く状況)」が幅広い金融市場に波及しているわけではない。先物カーブ(将来の受渡し時期ごとの先物価格の並び)は、トレーダーが今回の紛争を短期的と見ており、価格が低下すると想定していることを示している。
ブレントのカーブは強いバックワーデーション(目先の価格=スポットが高く、先の先物価格が低い状態)となっており、6カ月物・12カ月物の契約はスポット水準を大きく下回っている。この形は、数カ月先の原油価格が下がるという見方を示唆する。
市場は長期の原油ショックを織り込まず
市場は、2022年のような「持続的な原油ショック」を織り込んでいない。2022年にはブレントの6カ月先物が1バレル=100ドルを上回ったが、今回はより長引く事態を前提にした値付けになっていない。その結果、他の資産価格(株式・債券など)も、長期のスタグフレーション(景気停滞と物価上昇が同時に起きる状態)を全面的に織り込んでいない。
ブレント先物カーブの強いバックワーデーションは、100ドル超の上昇が一時的である可能性を示す。スポットが高いのは地政学リスク(国際情勢の悪化が経済や市場に与えるリスク)が目先の需給を揺らしているためだが、6カ月先と12カ月先は大きなディスカウント(割安な水準)で取引されている。これは市場が長期の供給ショック(供給減による価格押し上げ)に備えていないことを意味する。
この見方を補強する材料として在庫水準が挙げられる。米国の原油在庫は直近で増加(在庫の積み増し)しており、最新データでは300万バレル超の上振れ(見込みより多い状態)が示され、供給不安をいくらか和らげる。さらに、中国など主要消費国の需要増加見通しが約1.5%程度へ下方修正されており、需給の基礎条件(ファンダメンタルズ)が高値の長期化を支えるとは言いにくい。
トレーダーとリスク資産への含意
デリバティブ(株式や原油などの価格に連動する金融商品)取引の観点では、カーブがフラット化(スポットと先物の価格差が縮小すること)する、またはボラティリティ(価格変動の大きさ)が低下する方向に備える余地がある。例えば、110ドル超の行使価格で期近のコールオプション(一定価格で買う権利)を売る戦略は、想定通り上昇が一服すれば利益になり得る。これは数週間のうちに現在の過度な警戒(パニック)が落ち着くことに賭ける取引だ。
過去を振り返ると、2022年のウクライナ侵攻後にも、より強いバックワーデーションが見られた。当時でも市場は極端な高値が長続きしないと見込み、数カ月でカーブはフラット化に向かった。足元の構造も同じパターンに沿うが、強さは弱い。
この先物カーブの形は、他の資産クラスに広がるスタグフレーション懸念にも歯止めをかける。市場がエネルギーコスト(燃料などのコスト)が低下すると信じる限り、1970年代型の経済危機を見込んで株式や債券を積極的に投げ売りする動きは出にくい。これが、現時点で他市場の反応が限定的な理由の一つといえる。