インド気象局は、2026年のモンスーン(雨季)が「長期平均(Long Period Average:過去の長期データに基づく平均値)」を8%下回る見通しで、平年を下回る、または不足となる確率は66%としている。強いエルニーニョ(太平洋赤道域の海面水温が平年より高くなり、世界の天候に影響する現象)が見込まれ、4〜6月は熱波のリスクが警戒されている。
農業はGDPの約16〜17%を占め、近年は雇用の半分弱を支えている。GVA(Gross Value Added:付加価値額。GDPの内訳を示す指標)のうち作物部門は、農林水産全体の約半分を占め、穀物生産と連動しやすい。
市場にとっての主要な天候リスク
経済への影響は、エルニーニョの状態がどの程度強く、どれほど集中し、どれくらい長引くかで左右される。降雨量の合計だけでなく、雨の降り方の偏り(地域や時期による分布)も生産量に影響する。
食料価格は、足元の在庫や供給面の対応で一部は抑えられる可能性がある。政府の食料穀物在庫は十分とされている。
インド準備銀行(RBI)の金融政策委員会(MPC)は、エネルギーや食料の供給要因による物価圧力に対して、急いで金融引き締め(利上げなど)に動かない見通しだ。インフレ期待が急上昇し、総合インフレ(headline:食品・エネルギーを含む物価上昇率)がコアインフレ(core:食品・エネルギーを除く基調的な物価上昇率)に波及しない限り、金利は2026年を通じて据え置きが想定される。
インド気象当局がモンスーンを長期平均比で8%下振れと予測する以上、特定の市場セグメントで変動が高まりやすい。強いエルニーニョと熱波のリスクは農業生産を押し下げ得る。こうした環境では、天候要因のリスクと、金融政策が安定しているという見通しを同時に踏まえた戦略が必要になる。
RBIは2026年を通じて政策金利(benchmark rate:金融機関の資金調達コストの基準となる金利)を据え置く見通しで、金利デリバティブ(derivatives:金利などを参照する金融派生商品)には一定の予見性があることを示唆する。トレーダーは、金利変動が小さい局面で利益を狙う戦略、たとえば国債先物のアウト・オブ・ザ・マネー(現時点では利益になりにくい水準)のプット(売る権利)を売る手法を検討し得る。この見方は、インドのコアインフレが2026年4月に4.2%と、総合の5.1%を下回っているというデータにも支えられる。中央銀行には、食料要因の一時的な物価上振れを当面はやり過ごす余地がある。
金利・株・為替でのポジショニング
株式トレーダーにとって、Nifty 50指数は強弱混在だが対応可能な状況となる。ハト派(dovish:景気を優先し利上げに慎重)なRBIは一般に株式の支えになりやすく、Nifty先物やコール(買う権利)オプションによるロング(買い持ち)は利益機会となり得る。モンスーンの影響に備えるため、農村需要に敏感な企業、たとえばトラクターメーカーや肥料メーカーについてはプットオプションを同時に買い、下振れに備える方法が考えられる。
インドルピーは向こう数週間、下押し圧力を受けやすい。金利政策が据え置きである一方、モンスーン不振による景気の下押しが意識されると、通貨の魅力が低下しやすい。ルピー安を想定し、USD/INR先物やコールオプションでロングを検討すべきだ。
前回の強いエルニーニョだった2015年には、インドのモンスーンが14%不足し、食料インフレが一時的に上振れした。ただし市場全体への影響は限定的で、経済の耐性が示された。これを踏まえると、セクター別の波乱は起こり得る一方、市場全体が崩れるシナリオは中心ではない。