BNYのジェフ・ユー氏は、中・東欧で財政の余力が細っていることが、地域通貨(FX)の動きや「キャリートレード」(高金利通貨を買い、金利差の収益を狙う取引)の主因になっていると指摘した。同氏によると、域内で政策金利を引き上げる構えの中央銀行は見当たらず、短期的な物価の上振れよりも、財政運営が「インフレ期待」(将来の物価上昇率に関する市場や家計の見通し)を押し上げるリスクの方が大きい。
最も圧力が強いのはルーマニアとされる。政権崩壊で当面の財政運営が不透明になったうえ、2025年10〜12月期には「双子の赤字」(財政収支赤字と経常収支赤字)がそれぞれGDP比8%近くに達し、「実質金利」(名目金利から物価上昇率を差し引いた金利)も低水準にある。
ポーランドとハンガリーも、財政収支がGDP比で「10%弱」に近づきつつある。もっとも、過去2年は「経常収支」(貿易・サービス収支、所得収支、移転収支を含む対外収支)が改善しており、海外からの「対内直接投資(FDI)」(企業が工場や事業拠点など実物投資として資金を入れること)や「経常移転」(EU資金や送金など、見返りを伴わない資金移転)が資金繰りを支えている。ハンガリーでは選挙後の経常移転が支えとして挙げられた。
ユー氏は、当面の共通したインフレ圧力は外部要因で続くとみる一方、各国の財政の道筋はさらに分かれ、その差が「イールドカーブ」(年限ごとの国債利回りの形状)、通貨の資金フロー、通貨保有動向に波及すると予想する。
2025年後半に中・東欧で確認した財政のばらつきは、当社の取引戦略でも引き続き最大のテーマだ。域内の中央銀行は利上げに慎重で、調整の負担は通貨そのものにかかりやすい。今後数週間でこの差が拡大する展開に備えるべきだ。
最も明確な取引機会はルーマニアにある。2025年10〜12月期にGDP比8%に近づいていた双子の赤字は改善が乏しく、2026年1〜3月期の速報では統合財政赤字が7.8%となった。ルーマニア・レウ(RON)は最も脆弱な通貨とみる。中央銀行が「外貨準備」(通貨防衛や市場安定化に使える外貨資産)を取り崩して下落を抑えており、準備は1月以降で約30億ユーロ減っているためだ。
この見通しを踏まえると、損失を限定しつつレウ安に備えるため、ユーロ/レウ(EUR/RON)のコールオプション(将来あらかじめ決めた価格で買う権利)を買う選択肢がある。「インプライド・ボラティリティ」(市場が織り込む将来の変動率)は年初の8%から11%超に上昇しており、市場の警戒感を示す。この戦略なら、大きく動いた場合の利益を狙いながら、最大損失は支払ったプレミアム(オプション代)に抑えられる。
一方、ポーランドとハンガリーは対外面が相対的に安定している。ポーランドは2026年1〜3月期も経常収支の黒字を維持し、ハンガリーは電気自動車(EV)関連で新たに15億ユーロのFDIを呼び込んだ。こうした底堅さから、ポーランド・ズロチ(PLN)とハンガリー・フォリント(HUF)は相対的に魅力がある。
差を最も直接的に取るには、「相対価値取引」(市場全体の方向感ではなく、銘柄間の強弱差を狙う取引)として、フォワード(将来の為替レートを今決める先物型の契約)でPLN/RONやHUF/RONをロングにする方法がある。これにより、ユーロやドル主導の全体相場の影響よりも、ルーマニア固有の財政の弱さに焦点を当てられる。実際、ルーマニアとポーランドの10年国債利回りの差は2026年初から60bp(ベーシスポイント=0.01%)拡大しており、市場がこの差を織り込み始めていることを示す。