インドの10年国債利回りは、北海ブレント原油が1バレル=110ドルを上回って推移し、市場がより引き締め的な金融政策を織り込むなかで、再び7%に近づいている。翌日物金利スワップ(OIS=翌日物の指標金利を参照する金利スワップ)市場も変化し、1年物の指標は、この1年間に行われた利下げ分がほぼ打ち消される可能性を示している。
実体経済(企業の生産や雇用など、金融市場ではない現実の経済)の指標は底堅い。供給面の混乱(供給ショック)があるにもかかわらず、鉱工業生産や購買担当者景気指数(PMI=企業の購買担当者への調査に基づく景況感指数)の水準は維持されている。インド準備銀行(RBI=金融政策を担う中央銀行)は、価格上昇が一時的で、二次的波及(賃金・サービス価格などに広がる「第2ラウンド効果」)が限定的で、基調インフレ(食品・エネルギーなど変動が大きい項目を除いた物価上昇率)が安定していれば、短期的な物価圧力を過度に重視しない可能性を示している。
モンスーンリスクと通貨への圧力
インド気象局は今夏の降雨量が平年を下回る見通しを示しており、穀物以外の食品インフレ(例:野菜、果物、乳製品など)の押し上げ要因となり得る。インドルピーは、ネット・オープン・ポジション(NOP=銀行などが保有する外貨の持ち高。規制や運用で増減する)の変化に伴う上昇分を失い、対米ドルで緩やかな下落基調に戻りつつある。
通貨は、海外投資家による証券投資(ポートフォリオ・フロー=株式・債券への資金の出入り)の見通しが弱いことに加え、当局の介入(為替市場でのルピー買い・売り)による注文も重しとなっている。米国とイランの対立が解決に向かう明確な兆候が出るまでは、インドルピー建て資産は値動きの大きさ(ボラティリティ)と下振れリスクにさらされやすいとみられる。
インドの10年国債利回りは足元で7.35%近辺へと上昇しつつあり、インフレ懸念が続いていることを反映している。ブレント原油は約88ドルまで落ち着いたものの、国内物価や輸入コストを押し上げるには十分高い水準である。このため、金利先物(将来の金利水準に連動する先物取引)では、利回り上昇が続く前提でポジション管理を行う必要がある。
OIS市場は、政策金利であるレポ金利(中央銀行が市中銀行に資金を貸し出す際の金利)がすでに6.75%にあるにもかかわらず、RBIが追加利上げを行う可能性を織り込んでいる。3月の総合インフレ率(ヘッドライン=全品目ベース)は5.1%で、RBIの目標である4%を大きく上回る。中銀が姿勢を緩めにくい状況であり、スワップ取引(固定金利と変動金利を交換する取引)の参加者は、今後の金融政策委員会が引き締め寄り(タカ派=インフレ抑制を重視し利上げに前向き)となる可能性を意識すべきだ。
成長の底堅さと政策面の含意
引き締めを後押しするのは、実体経済の想定以上の強さである。3月の製造業PMIは58.5と強く、借入コストの上昇(利上げによる金利負担増)を受けても大きく減速しない耐性が示唆される。この底堅さから、RBIが成長を理由に早期にハト派(景気を重視し利下げに前向き)へ転じる展開は見込みにくい。
2022〜2023年の見通しを振り返ると、ルピーの長期的な下落基調が現実となり、現在は対ドルで84.50近辺で推移している。背景には、世界的なドル高と、インド資産からの継続的な資金流出(ただし流出は中程度)がある。デリバティブ(派生商品=先物・オプションなど、元となる資産価格から価値が決まる商品)の取引参加者は、RBIの介入が下落のスピードをならす効果にとどまり、反転までは難しい可能性を踏まえ、オプション(将来、あらかじめ決めた価格で売買できる権利)で価格変動リスクをヘッジすることを検討したい。