TDセキュリティーズ(TDS)は、英国の3月小売売上高(数量ベース、販売量)が前月比0.1%増になると予想している。市場予想は0.0%。2月は前月比0.4%減で、1月は値引き(ディスカウント)主導で増加した。
3月の増加は、実際の需要(基調的な需要)が強まったというより、販促(プロモーション)による「数字のゆがみ」が小さくなったことが背景とみられる。ネット通販などの「店舗を介さない販売(オンライン・非店舗)」が下支えする一方、食料品やスーパーの売上が全体の重しになる可能性がある。
小売売上の見通し
家財(家庭用品)への天候の影響は、3月に気温が上がり雨が減ったことで弱まる見通しだ。今回の小幅増は、中東情勢の緊張が高まった後の局面での動きと位置づけられている。
英国の民間部門の活動は4月に改善した。PMI(購買担当者景気指数:企業の購買担当者への調査から景気の良し悪しを示す指標。一般に50を上回ると拡大、下回ると縮小)では、製造業とサービス業がともに上昇した。製造業PMIは53.6(TDS予想50.5、市場予想50.3、前回51.0)、サービス業PMIは52.0(TDS/市場予想50.0、前回50.5)となった。
製造業の改善は、原材料価格の上昇やサプライチェーン(供給網)の不安を受け、前倒しの発注や在庫積み増しが進んだことが要因とされる。サービス業は、IT(情報技術)関連の投資やマーケティング活動が押し上げた。一方で、仕入れコスト(投入コスト)のインフレ加速、世界的な不透明感、輸送コストの上昇が需要や先行き見通しの重しになった。
小売売上は小幅に持ち直す見通しだが、1月のセール要因から通常の状態に戻る動きに近く、消費需要の強さを示すものとは言いにくい。オンライン販売は支えになるものの、食料品の弱さが続けば実質的な伸びは限られる。消費関連株の大幅上昇を見込むのは時期尚早の可能性がある。
市場リスクとポジショニング
4月の企業活動の回復は、製造業PMIが直近の高水準である53.6に達するなど、表面的には良好に見える。ただし、実際の受注増というより、価格上昇や供給網の混乱を警戒した企業の在庫積み増しが主因である可能性が高い。この種の動きは持続しにくく、今後数週間で反転する余地がある。
最大のリスクとして、燃料や原材料のコストが急伸し、英国のインフレ率(物価上昇率)を3.5%まで押し上げている点が挙げられる。これはイングランド銀行(英中銀)の目標を大きく上回る水準だ。インフレ圧力と世界的な不透明感が重なることで企業心理が冷え、英中銀が政策金利を「高水準でより長く」維持せざるを得ない展開になり得る。企業収益や株式市場には逆風となる。
過去を振り返ると、景気回復の兆しが出ても、世界的な供給ショック(供給側の急な混乱)が起きて相場の変動が一気に高まった局面と重なる部分がある。現状の地政学リスクを踏まえると、良好な統計が実態以上に見える可能性に注意が必要で、PMIだけを根拠に強気(ロング)に傾くのはリスクが高い。
こうした環境では、相場下落への備え(ヘッジ)を検討する余地がある。例えばFTSE250指数のプットオプション(一定価格で売る権利。下落局面で利益が出やすく保険として使われる)を買うことは、景気の勢いが失速するリスクに対する手当てとなり得る。インプライド・ボラティリティ(予想変動率:オプション価格に織り込まれた将来の値動きの大きさ)がなお比較的低ければ、保険料に当たるコストは過度に高くない可能性がある。
為替市場では、高止まりするインフレが英ポンドを不安定にしうる。英中銀の次の一手が読みづらく、GBP/USD(英ポンド/米ドル)などで値動きが大きくなる可能性がある。値動きの拡大から利益を狙う戦略として、ロング・ストラドル(同じ満期・権利行使価格のコール(買う権利)とプットを同時に買う戦略。上にも下にも大きく動けば利益が出やすい)が有効となる局面もありそうだ。