米ドルの世界的な役割は、世界的な経常収支などの不均衡(国や地域の「稼ぐ力」と「使う力」の差)が拡大し、国際通貨基金(IMF)の会合が金融システム全体のリスク増大を示唆するなかで、改めて疑問視されている。提示されている見方は、世界の国内総生産(GDP)に占める米国の比率が低下するにつれ、世界で使われる通貨としてのドル比率も時間をかけて下がり得るというものだ。
これは、外国為替(FX)取引(通貨の売買)のドル比率、外貨準備(中央銀行が保有する外貨資産)のドル比率、さらに債券・株式の発行通貨としてのドル比率を押し下げる可能性がある。それでも、世界の金融システムでドルが占める中心的な位置を、そのまま代替できる通貨はないとされる。
中国人民元は、資本規制(資金の国境をまたぐ移動を制限する仕組み)と、通貨を競争力ある水準に保つ政策(輸出などに有利な為替水準を維持する運営)に縛られているため、代替案としては位置づけられていない。ユーロも、より統合された経済圏の通貨にならない限り、完全な競合相手とはみなされていない。
示唆される帰結は、英ポンド(GBP)と日本円(JPY)の役割が今後も緩やかに低下していくというものだ。
ドルは依然として基軸通貨(国際取引や金融の中心となる通貨)だが、その長期的な土台は少しずつ変化している。2026年1~3月期のIMF最新データでは、世界の外貨準備に占めるドル比率は57.8%へ小幅低下し、2025年を通じて見られた緩やかな低下傾向が続いた。市場参加者にとっては、ドルの安全資産(リスク回避局面で買われやすい資産)としての地位は当面揺らぎにくい一方、基調としての変化は注視が要る。
ユーロは、まだ「次の基軸」として信頼できる挑戦者ではない。ユーロ圏内のインフレ率(物価の上昇率)のばらつきが続き、ドイツの最新値が1.9%である一方、イタリアは3.4%となっており、域内経済の分断が浮き彫りになっている。この構造問題を踏まえると、ドルに対するユーロの持続的な上昇を見込むオプション戦略(将来の為替水準に備える権利取引)は時期尚早になりやすい。
同様に、人民元は資本規制に制約されている。北京は2月、軽微な市場の動揺を受けて越境資金フロー(国境をまたぐ資金移動)を引き締めた。国際送金ネットワークSWIFT(世界の銀行間決済の通信網)経由の国際決済に占める人民元比率は先月5.2%に小幅上昇したが、ドルの優位を脅かすには規模が小さい。現時点では、人民元は「地域の通貨」であり「世界の通貨」ではない。
円とポンドは、国際市場での存在感が今後もじわじわ薄れると見込まれる。日本銀行が緩和的な金融政策(低金利・資金供給を厚くする政策)から脱し切れない状況は、2025年末にも改めて確認され、円の重しになっている。デリバティブ(金融派生商品)取引では、円の対ドル軟調が続く前提で「アウト・オブ・ザ・マネー(現状の相場では利益にならない水準)の円コール」を売る(円高に備える権利を売却してプレミアムを受け取る)戦略が検討対象になり得る。
今後数週間は、長期的な疑問がくすぶりつつも、ドルの優位が続く前提での運用が主軸となる。主要通貨ペアであるEUR/USDのインプライド・ボラティリティ(オプション価格から逆算される市場の予想変動率)が比較的低水準にあり、急変に備えるヘッジ(損失を抑える保険)として割安なオプションを買う機会になり得る。市場は、表面下でゆっくり積み上がるシステムリスク(金融システム全体を揺るがすリスク)に対して楽観的に見える。