シンガポール金融管理局(MAS)は、シンガポールドル(SGD)の名目実効為替レート(NEER、貿易相手国との取引量で重み付けした為替指数)の上昇ペースをわずかに引き上げ、金融政策を引き締めた。上昇ペースは年率1.75%程度と見積もられ、従来の1.5%から上昇した。狙いは景気下支えではなく、物価上昇(インフレ)の抑制にある。
2024年末にかけてインフレが落ち着くにつれ、MASは2025年1月と4月に上昇ペースを2度引き下げていた。今回の最新見通しでは、総合インフレ(全体の物価上昇率)とコア・インフレ(変動の大きい品目を除いた基調的な物価上昇率)の予測が上方修正された。
発表後、米ドル/シンガポールドル(USD/SGD)は小幅に上昇し1.2740となった。SGDのNEERは政策バンド(中央銀行が許容する変動範囲)の強い側に近いとみられ、USD/SGDは1.2600〜1.3120のレンジ、中心は1.2850付近が意識される。
人民元(CNY)は短期的な注目点となる。CNYはSGDのNEERを構成する重要な通貨であるためだ。SGDは2025年に対米ドルで約6%上昇し、今年に入ってからも0.9%上昇している。これは、日本を除くアジア通貨の平均(-0.9%)を上回る。
MASの今回の引き締めは、インフレ抑制を優先する姿勢を示す。したがって、今後数週間はSGDが底堅く推移しやすい。背景として、コア・インフレは2026年2月に3.5%へ上昇し、1月から大きく加速した。さらに、シンガポールの1〜3月期GDP成長率(速報)が2.5%と堅調で、MASが物価対策を優先しやすい環境にある。こうした経済の底堅さが、引き締め方向への転換を裏付ける。
デリバティブ(金融派生商品。先物・オプションなど価格が他の資産に連動する取引)を扱う参加者にとっては、USD/SGDの上昇局面での売りが選択肢となる。想定レンジが1.2600〜1.3120であることから、USD/SGDのアウト・オブ・ザ・マネーのプット(権利行使価格が現値から離れた売る権利)を、1.2600近辺の権利行使価格で売る戦略が考えられる。この方法はSGD高に加え、ボラティリティ(価格変動の大きさ)が低下する局面で有利になりやすい。
今回の政策は、昨年みられた方向性とは逆である。2025年初には、当時インフレ圧力が弱まっていたため、MASは上昇ペースを2度にわたり減速させた。今回は、物価上昇が強まれば追加対応も辞さないという、先回りの姿勢を示した格好だ。