ユーロ圏の1-3月期(Q1)の活動指標は予想を下回り、ドイツの製造業(工場などの生産活動)は圧力を受けている。原油価格の急変(オイルショック)は、2022年のエネルギー危機(電力・ガス価格の急騰など)に比べて影響範囲が狭く、欧州の景気への打撃も小さいとされる。
ドイツでは鉱工業生産(工場の生産量を示す指標)が前年比で小幅な減少を続けている。ドイツのQ1 GDP成長率見通しは前期比0.1%を維持し、上振れ余地は限定的とみる。
ユーロ圏の基礎条件と主な下支え要因
ユーロ圏の基礎条件(景気の土台)は、家計・企業のバランスシート(資産と負債の状態)の健全さ、AI(人工知能)やエネルギー関連の投資、ドイツの財政出動(政府支出や減税による景気刺激)、底入れしつつある住宅市場(不動産市場)に支えられている。2021〜22年に見られた広範な「第2波」の賃金上昇(物価上昇を受けて賃金が連鎖的に上がり、さらに物価を押し上げる動き)のリスクは低いとされる。
多くの国で人口動態(高齢化など)の影響により労働市場(雇用の需給)が逼迫しやすい。これにより、エネルギー価格ショックやドイツの財政出動を受けて、賃金が早い段階で上昇圧力を受ける可能性がある。
2025年初めを振り返ると、市場は弱いドイツの製造業指標に悩まされ、欧州全体の楽観論は抑えられていた。当時、家計・企業の健全な財務と、AI・エネルギー分野の投資需要が景気の底堅さにつながる点が指摘され、トレーダーの見方は慎重ながらも弱気一色ではなかった。
その慎重な楽観は妥当だった。ドイツの財政出動が年後半にかけて製造業の安定化に寄与したためだ。2026年2月時点でドイツの鉱工業生産は前年比+1.2%と増加に転じ、当時追っていた減少局面とは対照的となった。この持ち直しにより、当時の下振れリスクは概ね後退したことが示唆される。
市場の持ち高(ポジション)と取引への示唆
逼迫した労働市場による賃金上昇圧力への懸念は2025年の重要論点で、現在も有効だ。最新のユーロスタット速報(早期推計)では総合インフレ率(全体の物価上昇率)は2.6%まで鈍化した一方、コアインフレ率(エネルギーや食品など変動の大きい品目を除いた物価)は3%超で高止まりし、サービス価格が主因となっている。こうした乖離は欧州中央銀行(ECB)の金融政策の先行きを不透明にし、ボラティリティ(価格変動)の拡大で利益を狙うオプション戦略(一定期間に価格が大きく動くと利益になりやすい手法)、例えばユーロ・ストックス50のストラドル(同じ満期・同じ行使価格のコールとプットを同時に買う戦略)が有利になり得る。
家計・企業の健全な財務は消費者マインド(消費者の景況感)の想定以上の底堅さにつながり、直近四半期のフランスとスペインの小売売上でそれが確認できる。したがって、デリバティブ(金融派生商品)取引では、ドイツの重工業(景気敏感な製造業)よりも、消費関連セクターの強さが続くシナリオを意識したい。消費者向けセクターETFのコールオプション(買う権利)は、工業株指数のプット(売る権利)より相対的に優位となる可能性があり、1年以上前に見られた乖離を踏襲する形となる。
コアインフレの高止まりと賃金需給の逼迫を踏まえると、市場は今年のECB利下げ(政策金利引き下げ)経路を楽観的に織り込みすぎている可能性がある。ユーロ圏の短期金利の先物であるEuribor先物を見ると、期末までに少なくとも2回の追加利下げを示唆する先物カーブ(将来の金利見通しを示す曲線)となっており、強気に見える。今後数カ月、ECBが想定以上に引き締め寄り(タカ派=インフレ抑制を重視)となる可能性に備え、金利スワップ(固定金利と変動金利の支払いを交換する取引)を活用する、またはEuribor先物を売る(将来金利が下がりにくい想定に賭ける)戦略に妙味があると考える。