米国とイランの停戦報道を受け、中国人民元(CNY)が上昇した。これに伴い、米ドル/人民元(USD/CNY)の予想レンジは従来の6.85~7.25から6.70~7.05へ下方修正された。年末時点のUSD/CNY予想も6.75へ引き下げた。
2026年の年初来では、国内人民元(オンショアCNY)が対米ドルで2.3%上昇し、アジア通貨の多くを上回った。イラン戦争(中東での軍事衝突)が始まって以降、追跡している通貨バスケットの中でドルに対して上昇したのはCNYとオフショア人民元(CNH)のみだった。
政策シグナルと人民元高
当局は、中国人民銀行(PBoC)の日次基準値(フィキシング:翌日の人民元相場の目安)を通じて、人民元高をこれまでより許容する姿勢を示している。3月から4月初旬にかけて、逆周期要素(相場の変動を抑えるために基準値に加える調整項目)はほぼ中立水準だった。外為リスク準備率(先物取引など外貨取引に積む準備金の比率)は20%から0%に引き下げられ、PBoCの利下げ予想時期も2026年4~6月期から2026年後半へ後ずれした。
米中2年債利回り格差(米国債と中国国債の2年利回りの差)は2025年2月以来の高水準まで拡大したが、人民元の下落は小幅にとどまった。CFETS人民元指数(中国の通貨バスケットに対する人民元の強さを示す指数)は、戦争開始後で2.3%上昇、年初来で2.9%上昇している。構成比率(ウェイト)にはユーロ(17.9%)、米ドル(18.3%)、韓国ウォン(8.5%)、円(8.1%)が含まれる。
ホルムズ海峡の「通行料金」構想では、CNYまたは暗号資産(暗号通貨)での支払いが議論された。1日100隻(年3.6万隻)、1隻あたり200万ドルの料金とすると総額は720億ドル(約4,910億元)となる。中国の人民元国際決済網CIPS(国際送金・決済システム)は2025年に約180兆元を処理した。
米国とイランの停戦報道で人民元は大きく上昇し、ドル/人民元は6.85の水準を下回った。今後数カ月の予想レンジを6.70~7.05へ引き下げる。通貨の予想以上の底堅さと地政学環境の変化を反映した。
取引への示唆とポジション
人民元は今年、対ドルで年初来2.3%超上昇し、アジア通貨の中でも上位のパフォーマンスとなった。中国の2026年1~3月期(第1四半期)の輸出は前年比7%増で、経常黒字(貿易などの収支がプラス)の維持を通じて人民元を支えている。
北京の政策当局は、この上昇を容認しているように見える。PBoCのフィキシングは3月から4月初旬にかけて概ね中立で、USD/CNYの下落(人民元高)を強く抑え込む意図が薄いことを示す。背景には、紛争で上昇した資源・原材料の輸入コストを、通貨高で緩和する狙いがあると考えられる。
デリバティブ取引(先物・オプションなど)の観点では、人民元高を見込むポジションが主軸となる。米中2年債利回り格差の拡大は人民元安につながらなかった。停戦により米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測が意識されれば、利回り格差は縮小し、人民元の重しが弱まる。
年末予想6.75を踏まえると、トレーダーはUSD/CNYのプットオプション(ドル安・人民元高で利益が出る権利)を、権利行使価格6.80または6.75、満期を第3四半期に設定して検討できる。下落基調での収益機会を狙いつつ、損失を限定しやすい。停戦発表後はボラティリティ(価格変動の大きさ)が低下しており、オプション価格(プレミアム)面でも条件が改善している。
ただし、停戦が長期化すれば人民元がすべての通貨に勝ち続けるとは限らない。紛争で売られた韓国ウォンやユーロは、対ドルで反発が大きくなる可能性がある。これらに対して人民元ロング(人民元買い)を積み上げるのは慎重にすべきで、相対価値取引(通貨同士の強弱を狙う取引)として、ユーロ/人民元買い(EUR/CNYロング)を検討する余地もある。
注目点は、中国の輸出企業の行動だ。米国金利が高いことを背景に、2025年以降、企業は海外でドルを多めに保有してきた。先月のデータでは、企業の外貨売り・人民元買い(外貨決済)の増加が示唆された。USD/CNYが持続的に低下すれば、海外に滞留していたドルが国内へ戻り、人民元買い圧力が強まる可能性がある。