スイス・フラン(CHF)の「安全資産」としての需要は、スイス国立銀行(SNB)が通貨高を抑える措置に動くとの見方により抑制されている。これにより、市場が不安定な局面でも、これまでのようにCHFが買われやすい状況は弱まっている。
SNBは米国とイランの対立以降、フラン高への介入をより積極化させている。ここでいう「介入」は、中央銀行が市場で通貨を売買して為替水準の変動を抑える行為を指す。今回の姿勢は、フランを意図的に押し下げるのではなく、「安全資産買い」に伴う上昇を抑えることを目的とした後追い型(相場の動きに対応して行う)とみられている。
ユーロ/スイス・フラン(EUR/CHF)は0.92を下回って推移しており、地政学リスクが一時的に和らぐなかでSNB介入への警戒が後退したことが背景とされる。この動きは、フラン高局面で市場が想定するSNBの「抵抗」が変化しつつある可能性を示す。
一方、SNBが輸入インフレを抑えるためにフラン高を長期的に容認するかは不透明だ。「輸入インフレ」は、輸入品価格の上昇が国内物価を押し上げることを意味する。報告では、その目的でSNBがフラン高を受け入れると決めつけるのは時期尚早としている。
CHFの安全資産としての役割は、SNBへの警戒によって抑えられている。2025年の中東の外交緊張では、SNBがフラン高を抑えるために介入した可能性がある。こうした経緯から、市場参加者はフランの大幅かつ持続的な上昇を見込む取引に慎重になっている。
EUR/CHFが0.92を下回るなか、地政学リスクの後退によりSNBがフラン高に寛容になったとの観測もある。ただし、2026年3月のスイスのインフレ率は1.4%と落ち着いた水準で、輸入物価対策として通貨高を望む動機は小さい。SNBの主眼は、通貨を積極的に高くすることではなく、安定の確保にあるとみられる。
デリバティブ(株式や為替などを基に価格が決まる金融商品)取引では、ユーロまたはドルに対してCHFのコールオプション(特定の価格で買う権利)の売りが選好され得る。これは、フランが大きく上昇しなければ利益になり、SNBの存在が上昇余地を抑えるとの見方を前提に、オプション料(プレミアム)を受け取る戦略である。
過去を振り返ると、SNBは2022~2023年のインフレが高かった時期に外貨売り(外貨を売ってCHFを買う)を強め、フランを意図的に押し上げた。足元は状況が異なる。SNBの外貨準備(中央銀行が保有する外貨資産)の最新データでは、2026年1~3月期を通じて概ね安定している。これは、特定の方向へ誘導するのではなく、過度な変動を抑える「反応型」の姿勢を示唆する。
その結果、CHFは一定のレンジ(値幅)で動きやすく、変動率(ボラティリティ)低下を前提に利益を狙う戦略が意識される。例えばEUR/CHFでストラングルの売り(権利行使価格の異なるコールとプットを同時に売る取引)が挙げられる。プットは特定の価格で売る権利で、この戦略は今後数週間で大きな上下動がなければ利益になりやすい。